ゲイカップルも一緒に考えたい、
アウティングとカミングアウトの違い

クローゼットな自分でいるのも自分らしさなら、ゲイの恋人ができたことを報告せずにはいられない方もいると思います。
自分の生きやすさや、自分と言う立場を守る為にも、カミングアウトの是非は熟考しなければなりません。

そして昨今カミングアウトの可否と共に議論されているのが、同じ〝伝える″でもネガティブな意味合いで使われているアウティングです。
ここでは似て非なる両者の違いを解説すると共に、社会に蔓延るアウティングの恐怖とそれに対する対処法を考察していきたいと思います。

アウティングとカミングアウトは別次元の意味合いがある

自分を守る術になったり、時には人々を傷付けるナイフになったり、言葉と言うものは時と場合により相反する機能を持ち合わせます。
今回のテーマになるアウティングとカミングアウトはまさにその例といえます。

社会がゲイやレズビアンといったLGBTQに関心を持ちダイバーシティー教育が行われている昨今でも、やはりアウティングにより心に傷を追う方は後を絶ちません。

自分を認めてほしい、そんな気持ちが逆に自分を追い詰めることも十分考えられます。ここではアウティングのリアルを考える場として、皆さんの参考になれば幸いです。

なぜアウティングが問題になるのか?カミングアウトと比較して検証

LGBTQ、どれかに当てはまる人達にとって、アウティングという言葉に背筋が凍る思いをする方は決して少なくないはずです。
ここではカミングアウトの定義を復習した上でアウティングとの違い、それが凶器となり得るの部分について解説していきたいと思います。

カミングアウトの定義を今一度確認しよう

カミングアウトは”Coming Out”と表記されることから、自分の考えや自分の価値観等を外側に出す、言い換えると誰か第三者に自分のことを伝えるという意味合いを持っています。

その事象は必ずしも性指向だけに限らず、例えば親や仕事のこと、抱えている病気など様々です。
ただしその多くは人生において比較的重要度が高かったり、人に伝えにくい危うさだったりとデリケートな内容をはらんでいる場合がほとんどです。

重要なポイントとして挙げられるのが、カミングアウトは自分が伝える相手、そして伝える時期を自分で決定できること。

ゲイ男性、ゲイカップルにとってカミングアウトをすることは必ずしも必要なことではありませんし、伝える相手やタイミングによっては、カミングアウトでさえも相手に大きな不安や衝撃を与えることも十分考えられます。

アウティングの意味とカミングアウトの相違点

一方でアウティングについてですが、こちらは英語の”Outing”が語源になり、至極簡単に説明すると第三者の他人が同性愛者であることを暴露してしまうことを意味しています。

私達当事者にとってはまさに寝耳に水と言いますか、“えっ、ここでこの人にバラされてしまうの?”という恐怖の種が埋め込まれた言いふらし行為です。

確かに「誰かに伝える、伝わる」という点では同様かもしれませんが、自分がこの人ならばと選んだ相手にカミングアウトをするのと、自分の知らない背後でゲイだという事実を第三者がそのまた友人や知人に暴露することは根本的に異なりますよね。

例え自分が信頼できる相手と思って打ち明けたとしても、その相手から一切の同意がなされない上で他人への暴露が行われることは、当事者にとって大きすぎるブーメラン。

自分の知らないところで噂が大きくなり広まる恐ろしさ、そして人間的に難がある人物にまで伝播しかねないアウティングは、当事者のみならず周りを大きく巻き込む凶器の暴露といえます。

予期できない相手・タイミングで暴露されるアウティングの恐怖

アウティングとカミングアウト、両者が持つ相違点は明白に伝わったと思います。
アウティングに関しては、自分が良かれと思って勇気を出して伝えたのに、そこから良からぬ方向に同意なしで伝わる恐怖は計り知れないものがあります。

ここではアウティングを知る為に、日本でも大きな話題を呼んだ事例「一橋事件」を参照にしながら、アウティングの悪質さや違法性、そして被害にあわない為にできる対策について考察していきたいと思います。

アウティングは罪になるのか?一橋事件に見る悪質さと違法性

皆さんも聞いたことがあるかもしれません。
LGBTQ界隈だけでなく社会全体に大きな議論を生んだ一橋事件、その概要をまずはお話ししていきましょう。

この事件はとある男性Aさんが恋心を抱いていた同級生に対し、自らの気持ちと自分がゲイであることを伝えることから始まりました。
しかしカミングアウトをされた友人はAさんの気持ちを汲んであげることができず、さらにLINEグループでAさんがゲイであることを暴露してしまいます。

その後、体の不調を感じ始めたAさんはクリニックの心療内科を受診。
また、一橋大学構内にあるハラスメント相談室に相談を持ちかけるも理解してもらえず、悩んだ末に大学構内から身を投げてしまったという嘆かわしい事件です。

2015年8月に起きた事件で既に5年以上経過していますが、2020年に大学側の落ち度はなかったと遺族側の上告こそ棄却されたものの、「アウティングは不法行為である」ことが認められる判決が下されました。

ストレート男性にカミングアウトをする勇気、そしてカミングアウトを受けた男性の揺れる心情、両者にとっても大きな葛藤があったと思います。

今回の事件は恋愛感情を抱いていた相手にアウティングをされてしまったこと、そして夢への階段でもある大学を舞台にした暴露であったこと。それらがAさんにとって大きな心の痛み、精神的心労に繋がったことは容易に想像できます。

伝えられる側の苦悩というのもあったと思いますので、一概にアウティングをした友人を一方的に責めることはできません。

大学側は防ぎようのない事件だったと語っています。
ですが実際はセクシュアルマイノリティーを取り囲むデリケートな問題に関する知識のなさ、配慮不足があったにも関わらず安全対策に怠りはなかったと判断された判決といえるでしょう。

LGBTQ当事者としてこの事件について思うところは複数ありますが、ポジティブに捉える要素があるとしたら、この事件が引き金となりアウティングが不法行為であると認識され、国立市では条例の範囲内で「アウティング禁止」が盛り込まれたことが挙げられます。

アウティングは一橋事件の舞台となった大学以外のいかなるコミュニティーでも見受けられる事象です。
国としての対策が不十分であり、自治体の取り組みにも大きな差があることも事実。

今後私達ができる事はこの事件を風化させずに伝えていくこと、そしてアウティングの危険性や不当性という認識を絶えず啓蒙していかなければなりません。

アウティングの被害に合わない為にできること

どこからがアウティングになるのかを線引きするのは、シンプルそうに見えて実は簡単なことではありません。
例えば全く悪気が無く、さらりと第三者に伝えてしまうことや、もしくは受け止め方が分からず、その事実を他の友人に相談してしまうこともあるでしょう。

アウティングにはこのように悪意がないタイプ、そして一橋事件のような悪意があると捉われてもしかたないタイプの二通りに分かれます。
どこまでの暴露を自分の中で許容するのかも考える必要があります。

アウティング被害に合わない為にも、アウティングにならないライン、そしてこれ以上はNGのラインを頭の中でしっかり整理することが大切です。

例えば自分の意思ではなく、フットワーク軽めの友人知人に煽られながらカミングアウトを強要されたり、性指向の暴露を縦に脅迫されたりするケースについても勿論アウティングと言えます。

また、自分自身がカミングアウトをする人間を選び間違えることはそもそも自分でアウティングの種を巻いているようなもの。

伝えようとしている相手が心から信頼のおける人間に伝えようとしているのか、そしてそもそもカミングアウトを好意的に受け止められる土壌、バックグラウンドが相手に備わっているのかを慎重に判断できる分析力もアウティング対策に必要です。

勿論正常な判断が出来なくなるアルコールにいつも飲まれているような相手に伝えてしまうことも、望まない形で第三者に伝わる可能性が高くなることを覚えておきましょう。

何度も言いますがアウティングとは現段階でどれだけ自分の心が傷つくのか、そしていつどんな形で第三者に自分の性指向がバラされるのかが予期できませんし、必ずしも悪意が付随するとは限りません。

私達当事者がアウティングの定義とリスクを考えると、そして伝えられる側にも迷いや動揺があることを理解することも大切になっていきます。

まとめ

今回はカミングアウト、そしてアウティングの実態についてを、2015年に起きた一橋事件を例に考察してみました。

どこの国でもLGBTQに対する理解が及ばない層はいますが、日本については性の多様性を保護する法律の整備が他国と比べても非常に遅れていると言わざるを得ません。

私達ゲイ当事者にとっても、アウティングは恐怖そのものでしかありません。
所属している会社、教育機関、どんな場面でどんな形で噂が立つかは予想不可能。

社会的にダイバーシティー認知が不十分だからこそ、LGBTQを取り巻く環境に対する啓蒙を私達当事者が中心となり発信していくことが望まれます。
カミングアウトをする側、そして伝えられる側も互いに悩まないで消化できる、そんな社会ができることを願わずにはいられません。

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この記事を書いた人

橋本ウサ太郎

橋本ウサ太郎
新宿二丁目の元バーマネジャー、海外放浪の末、年下スペイン人男性と同性婚。
スペインの田舎町で悶々とした日々を送りながら平和に暮らすゲイ。
アメリカでの代理母出産により二人パパになる予定の三十路ライター。
好きな言葉は、「ペンは剣よりも強し」。

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