各自治体のパートナーシップ制度について。
利用するメリットとデメリットを当事者が解説。
「日本でも同性婚ができるようになった。」
私の友人は数年前にこう言い放ちました。しかしそれは正しくはありません。
彼女が言いたかったこと、それは日本でも「パートナーシップを結べる自治体が出てきた」ということ。
私のようなゲイ当事者目線では、同性結婚≠パートナーシップと理解できますが、ストレートの方にはわかりにくい事象かもしれません。
そこで今回は日本におけるパートナーシップの定義、そしてそこから享受できる恩恵とメリット、デメリットについて解説していきたいと思います。
渋谷発、全国行き!LGBTQ歓喜のパートナーシップの定義
2015年に渋谷区が全国に先駆けてパートナーシップ条例を制定して以来、多くの地方自治体が渋谷に続けと言わんばかりに、独自のパートナーシップを制定してきました。
ここではまず分かりづらいパートナーシップのこと、その定義から特徴を解説していきたいと思います。
パートナーシップは地方独自の取り組みであり同性婚ではない!
まず前述のように日本では同性婚は合法化されていませんが、渋谷や世田谷区等で整備されているパートナーシップは「二人の関係を婚姻に次ぐものとして認定する」制度の事です。
つまりパートナーシップ制度は、結婚ではなく、あくまでパートナーシップが結ばれている自治体において、二人の関係をパートナーとして認定するという意味合いが正しいと言えます。
なお欧州で導入されているパートナーシップ、またはシビルユニオンと呼ばれるものは、日本版と異なり、より結婚制度に近い法律として機能しており性別に関係なく利用可能です。
このパートナーシップ制度は日本でも大々的に報道されましたが、現在では前述の渋谷、世田谷区だけでなく港区や文京区、兵庫県の宝塚市、三重県伊賀市、沖縄県那覇市、大阪府大阪市に北海道札幌市などが、その地方独自のパートナーシップを導入。
ただし注意しなければならないことは、それぞれのパートナーシップはあくまで地方自治体独特のものであり、そこに国の法律の効力は反映されません。
つまり結婚のように法律で定められた強制力がない為、LGBTQ当事者にとっては大きな収穫が得られる制度とは言いがたいのが現実です。
勿論それぞれの制度の下で、カップルが何かしらの家族サービスや病院における面会が可能になる可能性は出てきますが、現段階では改良の余地が大きい発展途上の取り組みであることは否めません。
みんな知ってる?渋谷型と世田谷型パートナーシップの違い
日本にはパートナーシップという同性パートナーを持つ方への特別な制度があって、同性婚ではないけれど、それに相当する関係性を限局的に認めてもらえます。
しかしそれぞれの自治体によって制定されたパートナーシップは、各々が一様ではなく大きく渋谷型と世田谷型の2種類に別れます。
簡単にその違いを説明すると、
渋谷型
地方議員による賛成が必要になる条例が基になっており、国の法律とはまた異なりますが、渋谷区内で一定の効力を持つ法規として機能。
世田谷型と異なり、議会での決議が必要なため実現は骨が折れる作業を要します。
世田谷型
渋谷型と異なり、条例ではなく要綱としてまとめられたタイプのパートナーシップです。
議会にかけることなく、ある意味それぞれの地方自治体が考える「こうあるべきルールをまとめたもの」という認識が正しいでしょう。
つまりそこには法規としての効力は存在しない為、渋谷型と同様の恩恵こそあるものの、何かしらのトラブルがあった場合に責任を負わせることはできません。
上記のようにパートナーシップは渋谷区の条例と、それ以外の自治体による内部ルールの要綱に分かれるのです。
区民として責任ある言動を求められる渋谷型は、よりLGBTQの人々に寄り添った制度と言えますが、基本的に二人の関係性を認める範囲は渋谷型、世田谷版とも大きな違いはありません。
どこまで認められる?パートナーシップの適用範囲、利用するメリットとデメリット
性に捕らわれない生き方、そんな理想の社会に向けた第一歩と評価されているパートナーシップですが、多くの方が疑問に思う、「何ができるようになるの?」という質問の回答。
ここではより簡潔にわかりやすく、パートナーシップを結ぶことで可能になる事項についてまとめていきましょう。
そもそものパートナーシップが持つ効力について
まずはじめに言いたいことがあります。
それはどこの地方自治体のパートナーシップを申請するにしても、その適用効力は「結婚」と比べて極力弱いということです。
愛する二人なのだから認められて当然と思われる、遺族年金受取、配偶者控除は一切受けられません。
また遺言を作成しなければ、パートナーに遺産を残すことはできませんし、どちらかが片親として子どもを育てる場合は、その子どもの親になることもできません。
勿論これらの問題に関しては弁護士と相談の上で、遺言を制作したり未成年後見人の指定をすることで、最悪のケースを回避することは可能です。
それではパートナーシップを利用することで享受できる権利は何かというと、
- 生命保険の受取
- 家族として公営住宅への入居
- 賃貸契約における理解
- 携帯電話の家族割やクレジットカードの家族カード作成
- 病院での面会や同意の機会が得られやすい
- 夫婦間で利用可能な会社の福利厚生が利用できる
などがパートナーシップの大きなメリットとして考えられます。
ただしこれらは確約事項ではなく、保険会社や不動産会社、携帯電話キャリアや病院などの担当者の裁量に依存するということ。
つまりAさん、Bさんカップルの場合は滞りなく病院での面会ができ、携帯電話の家族割りを申込めたのに、Cさん、Dさんカップルは適応されないなどの差別化が生じるのです。
これこそがパートナーシップが持つ脆弱なウィークポイントであり、改善の余地がある事項といわれています。
パートナーシップを利用するメリット、デメリットまとめ
日本におけるパートナーシップはあくまで法律で保護されたものではないので、前述の通り、認められる可能性がある事項と、絶対的に認められない事項が明確なのでそのメリット、デメリットを正確に把握することが大切です。
ここで簡単にパートナーシップ制度を利用するメリットとデメリットを考えてみましょう。
まずメリットとして挙げられるのが、制度導入による一定の保護を享受でき、市民生活を送る上で社会からの理解を得やすくなるということ。
また同性婚とは異なるものの、二人の関係を自治体の承認の基で認めてもらう事実確認が、二人の精神的関係性をより強くすることができます。
逆にデメリットとしては、もはや言うまでもありませんが結婚に準じた制度でありながら、許容できる権利が限られていること。
そ
してその申請には任意後見契約公正証書と合意契約公正証書などの書類が必要であり(渋谷区の場合)、事務手数料が数万円必要になる点やパートナーシップ制度がある市に移住(住民登録)しなければなりません。
その他にも外国人パートナーに居住、労働ビザを提供できない点や、転居した場合はそのパートナーシップの効力は一切失われるなど、やはりデメリットも目立ちます。
ゲイカップルに聞いてみた!パートナーシップを利用したくない理由とは
実際私の友人カップルは、そもそも10年以上一つ屋根の下でまるでつがいのカナリヤのように仲睦まじく生活をしています。
しかし彼らはパートナーシップに否定的で渋谷に居を構えているにも関わらず申請を考えたことはないそうです。
なぜかと理由を聞いたことがありますが、このような説得力ある回答をしてくれました。
「だって嫌じゃない、いくらアポイントメントで申請って言ってもさ、慣れない事務作業で根掘り葉掘り聞かれたり、何よりアタシたちの関係を公に晒すなんてまっぴらごめんよ。あたしらクローゼットなゲイは、日陰で生きていても十分幸せなの。自分の性的指向をテレビカメラで晒した連中を見てみなさいよ、みんな証明書貰っても離婚してるじゃないのよ。あたしは今のままでいいわ、そっとしていてよ。」
とのこと。
た、確かに。オネエ言葉全開でも、言いたいことは十分伝わります。
私のように結婚願望が強い人間は法律に裏付けされた同性結婚にこだわりますが、それ以外の方はどちらかというと今まで通りでいい。余計に波風立てて騒ぎ立ててほしくない、そんなゲイの方も多いのでしょうね。
勿論パートナーシップの解釈はストレート、LGBTQで異なりますし、当事者のゲイの中でも賛否両論が存在し、それを評価する声もあれば、多くの否定的な意見も聞かれます。
個人的には同性婚もパートナーシップも利用可能なゲイフレンドリーの国に長く住んでいるので、やはり物足りない感、嫌な言い方をすれば街のプロパガンダ的な側面も感じてしまいます。
しかし今まで検討すべき課題として議論はされても、重い腰を上げずにいた政治家の皆さんも、この紙切れ1枚の存在を通して、今後セクシュアルマイノリティの人々がいかに生きやすい社会を作り上げるベクトルになっていくことは明白な事実。
欧米流が日本の土壌に合っているのか、世界で叫ばれる同性婚というスタンダードがアジアで根づくかは未知数ですが、日本は日本なりの島国根性丸出しでも構わない独自で斬新な制度ができることを期待せずにはいられません。
まとめ
最近はよりパートナーシップ制度の拡大が見られ、現段階でこれが今の日本でできうる最大のLGBTQカップルに対する人権保護ツールなのでしょう。
今のままではいけない、このまま止まらずにアップデートしていかなければならない。
それが前提条件ですが、いずれ全ての性的マイノリティの人々が利用したいと思う制度に進化していくことを願います。
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