現役ゲイカップルが語る!
代理出産で子どもを迎えるまで(パート5)

サロガシー、代理出産という言葉を耳にする機会が増えてきました。
スペインでは独身者、ストレートカップル、同性カップル関係なく、代理出産は完全に非合法であるため、他国を経由したサロガシープログラムで子を授かるカップルが少なくありません。

さて、今回のコラムではスペインで渦中の人となった有名セレブによる代理出産について国内で湧きあがったさまざまな意見を通し、代理出産に関する問題を改めて考察していきたいと思います。

スペイン国民が度肝を抜かれた!?有名女優の代理出産事情

日本のメディアにも取り上げられたこともあり、きっとご存知の方もいるかもしれません。スペインではたいへん著名な作家・女優であるアナ・オブレゴンさんが68歳で代理出産を介し、娘を授かったのです。

くどいようですが、スペインでは代理出産は非合法。(西ヨーロッパで完全に商業的代理出産が合法な国はまだありません。もちろんそこに金銭が発生しない代理出産を認めている国はありますが)

70を目前にした大女優が秘密裏にアメリカへ渡り、代理出産を介して母親になったことでスペインは大騒ぎになりました。

私たちのメキシコにおける代理出産とは直接的な関係はありませんが、このスキャンダル(これをスキャンダルと捉えるかはそれぞれだと思いますが)を通して、今回のコラムではスペインにおける代理出産に関する司法や国民のリアルな声を紹介していきたいと思います。

60代で娘を授かったスペイン人女優の大きな決断

晩婚、高齢出産がごくごく当たり前になってきた昨今、もし60代の女性が子どもをもうけるとしたら、あなたはどんな意見を寄せるでしょうか。

きっと多くの方が、母親になるには遅すぎると答えると思います。
日本ではあまり知られていないアナ・オブレゴンさんですが、スペイン国内からは代理出産で子どもをもうけた彼女に対して大きなバッシングが巻き起こり、世間を騒がしています。

ここでは彼女の半生を紹介するとともに、代理母で母になったアナさんの一連の騒動を振り返っていきます。

アナ・オブレゴンとは?

アナ・オブレゴンさんは1990年代から2000年代前半に大活躍を納めたテレビ司会者、女優、脚本家として知られています。『ボレロ/愛欲の日々』、『キリング・マシーン/怒りの暴走』、『秘宝の王冠』など数々の作品にも出演しているので映画好きの方ならご存知かもしれません。

いくつもの書籍を発表しており、スペイン国内で知らない者はいないといっても過言ではない有名人、セレブの一人です。以前はあのディビッド・ベッカムと恋仲だったとの噂もあり、海を挟んだお隣の国イギリスでも知られています。

最愛の息子アレス氏を2020年5月13日にユーイング肉腫で亡くした後(まだ27歳という若さでした)、その喪失感で彼女の人生もいわば消滅してしまったのです。
2021年には長く活躍したショービジネス界でのキャリアにも終止符を打ちました。

愛する子どもを亡くした悲劇はスペイン国民の涙を誘いましたが、それから3年後彼女は代理出産を通じ一人の娘の母親になります。

そして、誰も予期していなかった代理出産での娘の出産はスペインだけでなく世界中で大きな注目を集めることになりました。そう、彼女の娘は彼女の孫娘でもあるのだから……

還暦を過ぎた母、祖母になる

彼女が代理出産に挑む経緯は後ほど説明しますが、約1年ほどの短期スパンの間に代理出産手続きから出産までを迎えたそうです。

彼女は代理出産が合法の米国マイアミで娘となるアナ・サンドラちゃんをもうけるのですが、遺伝的にはアナさんは母親ではなく、あくまで祖母になります。(アナという名前はアナ・オブレゴン自身の名前であるとともに、息子アレス氏の祖母であるアナ・マリアから取られたようです)

日本で68歳といえば年金生活を送りながらスローライフという方も多いなか、代理出産で孫娘をもうけた彼女に対しては、おめでとうという言葉より先に、「なぜ?」という驚きでメディアが騒いだのは言うまでもありません。

子どもの父親と母親はだれなのか?

68歳での自然妊娠は不可能だからこそ代理出産というのは辻褄が合うかもしれませんが、ここで気になるのは父親と母親は誰なのかということ。前項で触れた通り、アナさんは遺伝的には生まれた娘の祖母という関係性になります。

分かりやすくまとめると、

  • 祖母……依頼主であるアナ・オブレゴンさん
  • 父親……精子提供者である故アレス氏
  • 母親……卵子提供者は不明であり、現段階では誰が遺伝上の母親なのかは分かっていません。(明かされることはないでしょう)
  • 代理母……キューバ系アメリカ人女性

代理出産が合法的なアメリカの法律に則り、100%合法なステップを経て孫娘が誕生し、本人の口から精子提供者は2020年に死去した自身の息子だと発表しています。

つまり、死を覚悟した息子が、自身のDNAを受け継ぐ子どもの誕生を希望する遺言を残していたということです。

冷凍保存した精子を利用し受精させることは不妊治療、代理出産では一般的なため、技術的には問題はありません。

しかし、配偶者(恋人)ではなく高齢の母親が代理出産を経て孫をもうけるという臨床例はあまり前例がないため、余計に注目を浴びる結果になってしまったのです。

アナ・オブレゴンさんの代理出産が批判を浴びた理由

68歳で母親(祖母)になることは罪なのでしょうか?
ここではスペイン国内の声を交えながら、批判の的になった理由を解説していきたいと思います。

お金持ちだけに許された特権なのか

スペインがカトリック国であることや女性の人権保護の観点から代理出産に厳しい声が上がっているのは否定できません。(どこの国でもデリケートな生殖医療には賛否の声はあるのですが)

立場に加えて代理出産に必要な金額は1500~2000万円程度に膨らむこともあるので(アメリカの場合)、お金持ちにしか与えられない特権と括られてしまい、余計ネガティブなイメージを植え付けられてしまいます。

確かに金銭的な負担が大きいのは事実ですが、そこには代理母になる女性に対する医療費、妊娠中の女性の生活費などの保障をカバーするために必要な費用が含まれているからです。

俯瞰してみると、ある程度経済的余裕がある人向きのオプションと判断されてもしょうがないのですが、アナさんの個人的事情とそこに至るまでの決断を第三者が裁く権利はありません。

今回の騒ぎは高齢のセレブ女性がアメリカで代理出産をして孫をもうけたことへの批判、疑問だけではなく、非合法もしくは法律で制限が加えられる代理出産というグローバルな生殖医療に対する警笛なのかもしれません。

政界の意見も割れた!?アナさんを擁護する声はあるのか

今回のニュースは自身が母親である方にとっては、一定の理解が得られているようです。しかし、それでも政治、司法の世界もアナさんに対しては、ある種の同情を傾けながらも代理出産への否定的見解を崩していません。

実際今回の代理出産劇がマスコミを騒がせて以降、敏感にこの件に反応したイレーネ・モンテロ平等相は「女性への一種の暴力である」と女性の身体的搾取、代理出産反対の声を改めて挙げています。

正直なところアナさんの代理出産はスペイン国内でネガティブな報道ばかりが独り歩きしている印象ですが、一方で代理出産が合法のアメリカでは積極的にこの問題の論点となる合法性を報じず、あくまでスペイン国内での論争や彼女のバックグラウンドについて触れる程度。

難しくデリケートな事象ですが、孫娘の写真をメディアに載せず独占取材を受けていなかったのならば、ここまで世界を巻き込む論争にまでは発展しなかったかもしれません。

メディアが一方的に詮索したり、憶測で記事を伝えるのはもちろん問題ですが、アナさん側のメディアとの距離感や関わり方についてはスペインでも疑問視されています。

まとめ

「子どもを残してほしい」という亡き息子の願いを、68歳で叶えたアナ・オブレゴンさん。息子であるアレス氏がこの世を去って3年後に生を受けた、孫娘アナ・サンドラちゃん。

アナさんは自身のインスタグラムにこのような言葉を綴っています。

  • 「暗闇に一筋の光が差し込んだ、私はもう一人じゃない」
  • 「この娘を抱いていると不思議な感覚に陥るの、まるであなたをまたこの腕で抱いているみたい」

そこには代理母云々という問題よりも、ただただ亡き息子に対する深い愛しか感じられません。
アナさんは息子を病から救い出すという母の願いこそ果たせなかったものの、アレス氏が最期に望んだ子どもを連れてくるという望みを叶えたのです。

代理出産であろうとなかろうと、子を思う母の思いが彼女の決断を後押ししたのは言うまでもありません。きっと、彼女は息子を癌から守れなかったという十字架を背負いながらも、最愛の孫娘とともに人生を歩んでゆくのでしょう。

まるでよく仕組まれた脚本のようにも感じてしまいますが、私たちはただ生まれてきたアナちゃんの幸せな人生とアレス氏の冥福を祈ることしかできません。

なお、アナさんですが既に『Mask Singer』の審査員としてメディアに復帰しており、今回の代理出産に関するインタビュー、テレビ出演も予定しているそうで、今後もこの話題は尽きそうにありません。

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この記事を書いた人

橋本ウサ太郎

橋本ウサ太郎
新宿二丁目の元バーマネジャー、海外放浪の末、年下スペイン人男性と同性婚。
スペインの田舎町で悶々とした日々を送りながら平和に暮らすゲイ。
アメリカでの代理母出産により二人パパになる予定の三十路ライター。
好きな言葉は、「ペンは剣よりも強し」。

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